シャドーボクシングの消費カロリーを、正直に計算する
「シャドーボクシングは30分で200〜300kcal」。どのジムのコラムにも書いてありますが、その数字がどこから来たのかは、まず書かれていません。元になっている国際的なメッツ表をたどって、体重別に計算し直しました。結論から言うと、その範囲が当てはまるのは体重50〜60kg台の人だけです。
先に答え:体重別の消費カロリー
本気で動いた場合の目安です。計算式と、その前提の弱いところは、このあとすぐ説明します。
同じ30分でも、50kgの人と80kgの人では約1.6倍の差があります。体重を書かずに「30分で250kcal」とだけ言い切っているページは、その時点で誰か1人にしか当たっていません。
この数字の出どころ
運動の強度は「メッツ」という単位で整理されていて、世界中の研究で使われる一覧表が公開されています (Compendium of Physical Activities)。 1メッツが安静時、9メッツならその9倍のエネルギーを使う、という考え方です。
ここで正直に言っておきます。この表に「シャドーボクシング」という項目はありません。いちばん近いのがコード15125「シミュレーテッド・ボクシングラウンド(運動として)」の9.3メッツで、今回はこれを使いました。ちなみにサンドバッグ打ちは5.8メッツ、スパーリングは7.8メッツ、リングでの試合は12.3メッツです。
計算式そのものは単純です。
メッツ × 3.5 × 体重(kg) ÷ 200 = 1分あたりのkcal
60kgの人なら 9.3 × 3.5 × 60 ÷ 200 で1分あたり約9.8kcal、30分で約293kcalになります。よく見る「200〜300kcal」は、体重50〜60kg台の人にはだいたい合っていて、それより重い人には低すぎる数字です。
9.3メッツは「中身のあるラウンド」の数字です
ここがいちばん大事なところで、たいていのカロリー記事が触れません。9.3メッツは、実際にラウンドとして動いている前提の値です。テレビを見ながら腕を振っている30分は、9.3メッツでは動いていません。
シャドーボクシングでいちばん多い失敗は、強度でもフォームでもなく、中身のないラウンドです。なんとなく手を出して、なんとなく3分が終わる。体は何も覚えず、消費カロリーも表の数字には届きません。 井上尚弥のシャドーボクシングを見ていて分かるのは、逆のことです。1ラウンドごとに、確認しているものがはっきりしています。
10分を本気にするラウンド構成
器具なし、3ラウンド。カロリーを追うより、この形を守るほうが結果的に早いです。
- 1R(3分)ジャブだけ。左ジャブと前足の踏み込みだけで3分。単調ですが、距離感はここでしか作れません。打ったら必ず構えに戻す。
- 2R(3分)ワンツーとボディ。左ジャブ→右ストレート、そこに左ボディフックを混ぜます。前に出ながら打つこと。90秒で息が上がっていれば正解です。
- 3R(3分)相手を想像する。打たれる前提で動きます。頭を振る、角度を変える、打ち終わりに必ず動く。いちばん疲れるラウンドです。
インターバルを30〜60秒はさんで、合計で10分ちょっと。60kgの人ならおよそ100kcal前後ですが、この10分で本当に変わるのはカロリーではなく、疲れてきたときにガードが下がらなくなることのほうです。
カロリー以外に分かっていること
短い高強度の運動を挟むトレーニングは、持久力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)を上げます。2015年に Sports Med 誌で発表された系統的レビューとメタ分析 (Milanović, Sporiš & Weston) は28件の研究・723人分をまとめ、高強度インターバルトレーニングが持久走型のトレーニングと同等以上にVO2maxを改善したと報告しています。
ただし、ここは正直に書きます。この分析が対象にしたのは自転車やランニングであって、シャドーボクシングではありません。根拠があるのは「ラウンド構造」のほうで、種目そのものではありません。3分動いて30秒休む形が理にかなっている、という以上のことは、この研究からは言えません。
この計算の限界
メッツは集団の平均値で、あなたを測った数字ではありません。同じ体重でも筋肉量、体力、フォームの効率で実際の消費は変わります。表示されるカロリーは、幅のある推定だと思っておくのが安全です。
それから、「シャドーボクシング」の項目が存在しない以上、9.3メッツはあくまで最も近い代用値です。抵抗も衝撃もない分、実際はもう少し低い可能性があります。この記事の数字を、体重計の代わりに使わないでください。使いどころは、10分と30分でどれくらい違うのか、体重でどれくらい変わるのか、その桁を掴むためです。